初めて命の危険を感じたのは9歳の時でした。

通っていた小学校近くの工事現場で、立ち入り禁止の看板を無視して、造成現場で友達3人と遊んでおりました。
これから保育園を建てるという事で、地面をかなり掘削して2~3メートル以上はあろうかと思われる大きな石がごろごろしておりました。
そんな大きな石があるその光景が、その頃はやっていた仮面ライダーとかで出てくる怪人達をやっつける場所に似ていて、友達みんなでライダーごっこをしていました。
私は怪人役で友達の仮面ライダーのキックを浴びて倒される役でした。
「ライダーキック~!」と友達に蹴られた拍子に、私は傍にあった大きな石にもたれかかりました。
そうしたら運悪く2メートルはあるかと思われる大きな石がゴロリと動きました。
私は慌てて逃げようとしましたが、大きく空いた穴の淵に足を取られ、その大きな穴の中に落ちてしまいました。その後、先ほどの大きな石が頭の上から落ちてきました。
「あーあ死ぬ」その時初めて死の恐怖を感じました。
「頭がつぶれてしまう・・・」そう思った瞬間、奇跡的に私の落ちた大きな穴に蓋をするような感じで大きな石が落ちて来て挟まり、私は頭がつぶれることなく穴に閉じ込められる感じで助かりました。
「助かった・・・」そう思ったのも束の間、今度はその穴から出ようと蓋のようになった大きな石をどけようと、押し上げてみましたがびくともしません。
そりゃそうですよね。2メートルほどもある大きな石です。小学生が持ち上げることなんかできません。
友達に「この石持ち上げてくれー」と頼みましたが、友達2人の力でもびくともしません。
「誰か助けを呼んでくれ!」と友達に頼み、彼らが現場から去っていく気配を感じながら、私は変なことを考えていました。
「工事現場の人や警察とか来たら、母さんと父さんにきっときつく叱られるだろうな。」と。
友達は一向に戻って来る事無く、時間だけがゆっくりと過ぎていきました。

どの位の時間が経ったか記憶にはありませんが、穴の中と言う特殊な空間内で息苦しさを感じていたからなのか、9歳の子供にはとてつもなく長く感じる時間でした。
すると友達が「大人に人を連れてきた。助けてもらうからもう少しだけ我慢して」と言う声が聞こえました。
まもなく石が動き始めました。
男の人一人がその大きな石を脇の方へずらす様に持ち上げてくれました。
「すげー。力持ち・・・」と思ったことを記憶しております。

私たちはその男の人にお礼を言いましたが、その男の人は何も言わず、私たちを叱るでもなく逃げるように立ち去りました。
不思議なことに後から御礼をしようと友達にもその男の人の名前や顔かたちなど聞いたのですが、2人とも覚えていないのです。
私自身もその男の人の顔も服装も覚えていません。
どんなに思い出そうとしても、なぜか記憶からその部分だけが抜け落ちているんです。
ただ覚えているのは、助け出されたときのその人の手のぬくもりと、光を背にした姿だけです。
何はともあれ、こうして私は9歳と言う歳で九死に一生を得る体験をしたのです。