日本で書面として残っている最初の生前葬は、今から約200年前の江戸時代とされています。肥前平戸の藩主「松浦静山」が記した随筆集『甲子夜話』に…ある家老が「人生一度は野辺送りに合うものだから命ある内に葬礼して欲しい」と住職に頼んだと言う記録が残っています。
現在の熊本県にあたる肥後の家老が、城下のある寺院の住職に「人生一度は野辺送りにあうものだから、命あるうちに葬礼をしてほしい」と願い出ました。野辺送りとは、遺体を墓場まで運ぶ葬列のことです。
その家老は、当日までに棺や香花などをすべて準備し、葬礼では白装束で棺に入りました。墓場まで葬列を組み、僧侶たちに読経してもらうという、実際の葬儀さながらのもので、埋葬される直前に棺から出たといいます。家老は生前葬の後、「吾はすでに死せり。そののち真に死せば仏法によるべからず」と言い残して亡くなります。自身は甲冑を身に纏い、従者には出陣の格好で葬列を組ませ、宗教家不在の儀式で葬られました。