21歳の時、大学生活にもようやく慣れてきて友達も出来ました。
その友人は渓流釣りが趣味だったので、その年の秋に新潟の山奥のイワナ釣りに誘われました。
川釣りは小さい頃からしていたのですが、本格的な渓流釣りは初めてで少し緊張していたことを覚えています。
山を登り始めて1時間くらいで釣りポイントに着きました。
折しも運悪く前日降った雨のせいなのか、川はかなりの水量と勢いがありました。
「こりゃあちょっと厳しいかもね。」と友達は言いながら「他のポイントに行ってみよう」という事になり、水量の比較的少ない所を狙って川を渡ることになりました。
先ずは慣れた友人が川を渡りました。
途中、水量に押されてか滑りかけてはいましたが、何とか無事に渡り切りました。
私の番になって少しづつ慎重に川を渡り始めたその時、苔の生えた石に足を取られたのか、勢いよく滑り、川に流されてしまいました。友達が「あっ」と言う顔をしているのを見ながらどんどん川下に流されていきました。
水の中に沈んだり浮いたりしながら、友人が必至形相で追いかけてくるのが分かりました。
流されている私は何故か冷静で「これは死ぬかもしれないな。ここで死んだら友人に迷惑かけてしまうし、せっかく大学に入れてくれた両親にも申し訳ないな。」と思いながらも、何か掴まるものを探してもがいていました。
5分くらい経ったでしょうか。薄れていく意識の中で、何か手に当たる「温かい感触」がありました。
それに必死にしがみつきました。
私は運よく流木の枝にしがみつくことが出来て、岸まで這い上がることが出来ました。
友人も直ぐ駆けつけて「大丈夫か?もうダメだと思ったよ…」と身体を支えてくれました。
ホッとしてタオルで顔を拭いていると私たちのすぐ傍に小さな石碑が立っているのを見つけました。
石碑には「1973年●月●日 最愛の〇〇 享年21歳 この地にて没す」と刻まれておりました。
友人は「助けられたかもね」と言ってそれ以上は話しませんでしたが、私も「偶然同い年だった彼に助けてもらった」と心の中で感謝しました。